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タイムスリップする一枚板のテーブル

古い、と言う価値観


 僕は古いモノが好きである。もっと詳しく言うと、古い価値観とか考えとかも好きである。例えばことわざには、生きる為の真理が含まれているように、現代まで残っている古いコトやモノには本質があると思っている。そんなだから、いつも見ているのは古い材料をどうやって使ったら現代の価値観と合うだろうか?とか、新しい材料で作った物に古い価値観を纏わせるにはどうしたら良いか?などを考えている。決して骨董品を最上段に考えている訳ではないけど、骨董品に人が惹きつけられるように、家具や仕上げを駆使して人が惹きつけられる内装空間を作るにはどうしたら良いか?が僕のテーマである。


小林商店が手掛ける居酒屋の家具


ゴジラで思いつく


 お店の打合せに行った時、プロジェクターがあって、休憩時間にゲームしたりビデオを見ている店員さんがいた。ここに来たお客さんともゲームを楽しんでいるのであろう。その痕跡が残っていた。そんな時、フッと見たプロジェクターに、懐かしいを通り越した程に古い時代のゴジラが流れた。店員さんはそのゴジラの事を良く知っていて、ゴジラの歴史を別の店員さんと話している。


小林商店が手掛ける居酒屋の家具


 このお店はオーナー自体が昔のカルチャーが好きで、アンプも古い形状の物を頼んでいるし、流れる音楽も聴いたことの無いような音楽を流している。僕と同年代なのにそんな音楽を知っていて、だからそこで働く店員さんが流すビデオも古い時代のゴジラなんだろうと思った。


 そうだ、このお店を堪能する事は、時代のタイムスリップなのでは無いかと閃いた。そのタイムスリップを現代風に楽しむ事こそ、お店の差別化だし、それを空間にできたら面白い、と思ったのである。



タイムスリップする為の古い木


 古い木を使ったデザインは今、隆盛の時を迎えている。何で使うの?と言う理由は様々だと思うけど、どちらかと言うと古い木の形状に味がある、と言うが多くの理由だろう。古い木はそれほど魅力的である。僕もどこかで使いたいと思っていたけど、なかなか形以上の理由が見当たらず、コストも掛かるから使う機会がなかった。


 ただ、今回ばかりは違った。現代の我々が、流れる映像も座っている机もゴジラの時代に疑似的にタイムスリップする仕掛けになる。古い木のカッコ良い見た目も、そして目に見えないコンセプトも含めて使う理由ができたのである。あとは、要望されている席数を確保できる大きさの古い木を見つけ、ハイテーブルにする事で、そこは1960年代になる筈である。




 古い木で結構大きい木はどこにあるか?材木屋に電話して色々と探して見た。コストもあるから安価で変わった形状で、そして古い木を探さないといけない。金額が高かったり、場所が遠かったり、そもそもその時代の物が無かったりを繰り返し、その結果、あるか分からないけど面白そうな材木屋を見つけていく事になったのである。


めちゃくちゃ広いパラダイス


 はじめに言っておきます。見つけた材木屋はめちゃくちゃ面白かった。そして、そこはあまり知られたく無いので場所は控えておきますが、事前の電話を通じて社長の人となりを想像していたけど、会ってみるとやっぱり面白い人。その人柄が倉庫にも出ていました。曰く、ただの材木屋では面白く無いし生き残っていく為にこんなやり方をしているそうだ。


 とにかく、材木屋と言っている割には色んな物がおいてある。1日いても飽きない。広大な敷地に多数の倉庫があり、そこには見た事のない物や、写真では知っているけど生では見た事のないような物が置いてある。どうやったら使えるかとか、こう言うオーダーがあった時はこれを使えるよね、とか色々と考えながら敷地をいったり来たりしていた。



テーブルを作る


 肝心のテーブルの木は?と言うと、冒頭に載せた写真の右側を使う事にした。ポプラと言う柔らかめの木だけど、長い間乾燥されていたから狂う事も無いし、ウレタン塗装すれば表面の硬さを担保できて問題ないと判断した。塗装に関しては、オイルの方が木の質感を残せると言う常識があって、特に一枚板の場合には、オイル塗装が最上という風に思われている。ただ、僕の考えはちょっと違う。使用する空間によってウレタン塗装の艶が美しく感じる時もある。今回は飲食店という事もあり塗膜が必要と言う事もあったけど、決して木の質感を楽しむ為だけの空間では無く、古い木が作り出す重厚な空気感をもっとフランクに触れる事の出来る様にする必要がある、と感じていたから艶の出るウレタン塗装を迷わず選択した。木が主役では無く、木を含めたその空間のコンセプトの方が重要だと言う事である。


古い映画を楽しむ


 結果的に、結構高価なテーブルなのに、その高価さよりも、その高価さをむしろ親やすさに変えることが出来たように思う。もちろん、間近で観ると本物の木の凄みがわかる。サイドの耳もやっぱり凄い。でも、それを自慢するのでは無く、その場所に流れている空気の為に、木の凄みを脇役にできた事が発見だった。これからも、一枚板だから高価で最上である、と言う使い方では無く、現代の若者の価値観に合うような使い方が出来ると嬉しい。


小林商店が手掛ける居酒屋


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