話に集中できる腰掛け


小林商店が手掛ける居酒屋

コミュニケーション


 同じ空間に2人いれば、そこには何かしらのコミュニケーションが発生する。無視する、話す、抱きつく、言い合う、など、何かしらが発生する。1人では発生しないコミュニケーションはとても難しく、時には戦争にまで発達するし、時には一生の伴侶を見つけるのがコミュニケーションである。このコミュニケーションは太古の昔から存在し、高度なコミュニケーションは人間でしかできないことでもある。


 居酒屋に来る理由のほとんどは、お酒を飲んで前頭葉を萎縮させ、正常な判断を困難にさせる事で、普段ではできないコミュニケーションをするのが目的となっている。お酒を飲む事で普段言えない事や、馬鹿話をする時間を楽しもうと言う事だ。その楽しくも昔からあるコミュニケーションを、スタンディングカウンターで顕在化させようとしたのがこの腰掛けである。

小林商店が手掛ける居酒屋

座るのでもなく、寄りかかるでもなく


 スタンディングのバーは、カウンターに寄りかかり、スタッフと話す。もしくは連れと話す。基本的に前のめりの体勢だ。たまに、スタンディングだと疲れるから、座るためのバーが設置されている。このバーに腰をかけ、前のめりと座るという二つの動作を行える様になり、話の最中の体勢を選ぶ事ができる様になる。前のめりに疲れたら座れば良い、という安堵感も生まれる。


 が、酔っ払っている人は、細いバーに腰掛けると後ろに転倒する事がある、と聞いた事があった。普段、ホームとかである腰掛けのバーで後ろに転ぶ事なんてない。なぜなら正常だからだ。ただ、酔っ払っているとどうか。もしかしたら、後ろに倒れてしまうかもしれない、と思わないだろうか?それはそれでお酒の席では楽しいとは思うが、折角の馬鹿話を楽しむ時間に倒れる恐怖が同居するのは勿体無いと感じた。


 そこで、座るのではなく、後ろに倒れないように寄りかかれる腰掛けができたら良いのではないかと思って作ってみた。ずっと立った状態だから座るよりも疲れるが、それでも話に集中しやすいのではないかと思う。スタンディングバーでカウンターに前のめりに寄りかかっているのは調子が良い時であるように、この腰掛けも、座るのでは無く寄りかかるのだから調子が良くなると勝手に決めつけた。つまり、休むのではなく、戦闘体制に入る為の腰掛けといっても良い。


小林商店が手掛ける居酒屋ネバーランド宴

新しい素材


 人間の根源的な能力であるコミュニケーションを顕在化させる。その目的で作られたこの腰掛けは、新素材である鉄と集成材で作られている。鉄は昔からあるが、ロの字の鉄は比較的新しい素材だ。それを使用している。人間の根源的な振る舞いを、現代の素材で顕在化させる。それが今回のモノづくりの目的である。木だけでは絶対になし得ないくの字の形状を鉄という強度のある素材で製作し、人の寄りかかる荷重に耐える。これが弱い素材ならあっという間にダメになるが新素材であれば問題ない。


 古い価値観を新しい材料で顕在化させる。当たり前の事かもしれないけど、そうやって物事を見ていくと当たり前の事が新鮮に見える。僕たちは過去と現代、未来を行ったり来たりしている。どんな事でもその視点を持つとこれからも面白い発見があるのでは無いかと思っている。